シンシウエニシ徒然草々
Diary-2007/08/21
猪の森
夏、森は下草が大いに茂り分け入りがたい。
獣道も、漆や笹、茨が酷く楽には進めない。
法的に罠を仕掛けることができないため、水道用の塩ビパイプで作った弓と竹槍をもって、私は猪を追っている。
竹槍は槍と言うより、マムシ除けに前方を叩くために使う。
勝負は弓で決める。
威力は充分にある。
週刊ジャンプに矢を深く突き刺せる程だ。
射程は6メートル。
それ以上だと何処に飛ぶか分らない。
以前は信者達も徴用したが、もう彼等は応じてはくれなかった。
漆や毛虫、蚊にコテンパンにやられたので仕方がないかもしれない。
何より彼等は猪に興味がない。
私は一人、孤独な獣道を進む。
猪の痕跡はそこら中にあるが、猪は見つからない。
何故だ。何故いないのだ。
暫く立ち止まって、考える。
理由は簡単に思い当たった。
蛇除けに地面を叩きながら進んでいるのが拙いのだ。
猪が気付けば隠れるに決まっている。
しかし、マムシやヤマカガシは毒蛇で怖い。
毒蛇でなくとも蛇は非常に気持ち悪い。
蛇除けもせずに、草ボーボーの山の中など歩けない。
私は捕獲作戦の見直しを検討するため、撤退した。
猪を捕らえることは容易ではない。
信者の一人が言った。
「教祖、猪を探すより、スーパーで肉を買ってきたほうが簡単で美味しいと思うのですが。
と言うか、そのためのスーパーで、文明社会ですよ。」
「そんなことを私が理解していないとでも思っていたのですか。
思い上がりもいい加減にしなさい。
自分だけが賢いと思うとは、いや、私をアホだと認識しているとはどういった了見ですか。
いつも言っているでしょう。
真実は人を傷つけるので、十二分にオブラートに包めと。
貴方には愛が足りない。
私は失望しました。」
「ほら、教祖、サイダーあげるから。」
「こんなもので私を誤魔化せると思っているのですか。
サイダー一本で、いい年の男がころっと態度を変えるはずがないでしょう。
馬鹿にしているのですか!」
「じゃあ、いらないの?」
「ありがとう。サイダー飲みたいと思っていたんですよ。」
信者にも猪にも、いいようにあしらわれているまん丸教祖。
カリスマの道は長い。
ではまた ごきげんよう。